#002 小田急線と京王線でおきた二つの通り魔事件 

新宿を起点とする二つの郊外電車

小田急線と京王線、新宿駅を起点とするこの二つの路線は開業当初よりよきライバルとして東京と神奈川の大動脈としての地位を不動のものにしてきました。 日本一の乗降客を誇る新宿を出発した二つの路線は、都内ならびに神奈川県内の有数の住宅地を走り抜け、通勤・通学客の足をとして、また箱根、丹沢、江ノ島、高尾山等の観光地への移動手段としての重責を担ってきました。

また、高架化、地下化、複々線化及び車両の更新等のインフラ整備も重ね、他の鉄道会社との連携による相互乗り入れも積極的に行ってきました。 その結果、より安全で、より快適で、早くて便利な関東屈指の私鉄の座を占めてきました。

そんな二つの私鉄路線で2021年に相次いで悲劇が起こりました。

一つ目は8月6日に起きた小田急線内無差別殺人未遂事件であり、二つ目は10月31日に発生した京王線車内放火殺人未遂事件であります。

これら二つの事件は、3ヶ月に満たない短期間に発生したことと、次ページの地図でもお分かりいただける通り、現場が直線距離にして僅か5㎞足らずであったことが特徴として挙げられます。 

幾多の不可解な鉄道事故を調査してきましたが、その編集をしている最中に新たな事件としてこの二つが追加されるとは思ってもいませんでした。

さらに、嘆かわしいこととして、これらを模倣した犯罪がまた一つ発生したということです。

これらの事件を通してわかったことは、日本の鉄道ではこのような事件が防ぎようのないものであるであるということであり、究極の選択は電車に乗らないということ以外には答えを見いだせないように思えてきますが、皆様の中に何か妙案をお持ちの方はいらっしゃらないものでしょうか?

2021年 (令和3年) 8月6日  小田急線内無差別殺人未遂事件

一つ目の事件は小田急線の車内で発生しました。 

上り快速急行が登戸駅を20時30分に発車した直後に36歳の対馬悠介容疑者は刃渡り20㎝の牛刀を振りかざしながら車内の乗客に襲い掛かりました。 その中でもとりわけ悲惨な被害に遭ったのが20歳の女子大学生A子さんでした。 彼女は必死で逃げながらも、対馬容疑者に執拗なまでに追い詰められ、胸と背中に合計7カ所の刺し傷を負い瀕死の重傷を負いまし。 A子さんの他にも男女合わせて3名の人が刺され、4名が逃げる際に転倒するなどの重軽傷を負いました。

対馬容疑者は祖師ヶ谷大蔵駅で緊急停止した電車から逃走し、環状8号線を北上したもののすぐに力尽き、4㎞離れた杉並区内のコンビニエンスストアで自ら犯行を名乗り、通報を受けて駆け付けた警察官に逮捕されました。

犯行の動機はフェミサイドという、女性に対する強い憎悪の感情を抱くようになり、それが理由でヘイトクライムという名の憎悪犯罪へと進んだものと考えられています。

 

対馬容疑者の供述によれば、 「幸せそうな女を見ると殺してやりたくなる」 と言い、6カ月以上前から犯行を計画していたようです。  A子さんに狙いをつけたのは 「彼女が勝ち組っぽい服装をしていたから」 との、なんとも意味不明というか身勝手な理由でした。

また以前からサークル活動で知り合った女性にバカにされたとか、出会い系サイトで出会った女性に即刻で交際を断られたとかで女性に対する憎悪感がエスカレートしていった模様です。

そして今回の事件の引き金となったことは、犯行の前日に都内の食料品店で酒とツマミを万引きしたことが見つかり、それを警察に通報した女性店員に復讐を企てることが目的のようでした。 しかし店が閉店後で実行に至らず、復讐の相手が小田急線の乗客に入れ替わったとのことで、すべてにおいてマヌケというかお粗末な話でありました。

事件後、怪我をした人の他にも、同じ電車に乗り合わせたことなどで多くの人が急性ストレス障害等の後遺症に苦しんでいるようです。

追記:ここで素朴な疑問がわいてきたのですが、対馬容疑者は犯行に用いるためサラダ油を携行していたと言われていますが、揚げ物の油に火が引火するということはよく聞きますが、常温のサラダ油には火がつくものでしょうか?

2021年 (令和3年) 10月31日  京王線車内放火および殺人未遂事件

小田急線の事件から3か月も経たないハロウインの夜に、二つ目の事件が発生しました。

それは一つ目の事件の現場からわずか5㎞程しか離れていない京王線内でのことでした。

上り新宿行き特急列車が19時54分に調布駅を発車した直後に24歳の服部恭太容疑者が、車内に居合わせた72歳の男性をナイフで切りつけ重傷を負わせました。 さらに傍らにいた複数の女性と、逃げ惑う他の乗客に向かって2リットルPETボトルに詰め込んだライター用のオイルをまき散らし火を放ちました。

列車は国領駅で緊急停車したものの、他の乗客が操作した非常用ドアコックの影響で、所定の位置まで進めず、列車のドアもホームのドアも開けることはできませんでした。 やむなく、乗客らは窓から脱出するしかなく、辛うじて一命をとりとめることができました。 

服部容疑者は駆けつけた警察官に殺人未遂容疑の現行犯で逮捕され、後日殺人未遂罪と現住建造物放火罪で起訴されました。

この事件で、ナイフで刺された男性の他、17名の乗客が一酸化炭素中毒などの重軽傷を負いました。

事件の動機は、 「仕事がうまくゆかず死刑にしてもらいたかった。 そのためになるべく多くの人を殺すことを考えた。」 とのことです。 8月の小田急線事件を参考にしたとも供述しています。

なお小田急線、京王線で発生した両事件とも、二人の容疑者の刑事責任能力が問われていましたが、いずれも責任能力ありとの判定で起訴されることになりました。

この事件の報道を見て真っ先に思ったことは、窓が開いて本当に良かった、ということです。 

そしてこの事件と重なった光景は、昭和26年の桜木町事故と昭和37年の三河島事故のことでした。 桜木町事故とは、現在のJR根岸線桜木町駅構内で、架線のショートにより老朽化した電車から失火して、ドアも開かず、乗客が高さ29㎝の窓から逃げることも出来ずに、106名の乗客乗員が尊い命を奪われた火災事故のことです。 

また三河島事故とは国鉄常磐線で、脱線事故が発生した下り取出行き列車の車外へ避難した乗客が、対向してくる上り上野行き列車に次々に跳ね飛ばされ、さらには上下線の列車同士が衝突した上に列車の一部が高架線から落下して、乗員乗客160名が犠牲となった大惨事のことです。 

車両の難燃化が進み、避難誘導体制も見直しと改善が積み重ねられてきたことと思います。 

それでも、電車は2m手前で止まってしまい、電車のドアも、ホームドアも開くことはありませんでした。

乗務員も、駅員も、指令員も、咄嗟の判断でドアを開けなかったとのことです。

今回の場合、非常用ドアコックが操作されたため、電車は仕組みの上で止まりました。

また電鉄職員たちは手動でドアを開けようと思えば開けることができたそうです。

でも、危険な状態と判断して、ドアを開けなかったとのことです。

ドアを開けなかったことに対する正否は筆者にはわかりません。 ここでは適切な判断であったと申し上げておきます。

ともあれ、被害者はナイフで刺された1名の重傷者と、17名の一酸化炭素中毒だけで済みましたが、この事件でわかったことは、車両の構造や避難誘導体制が綿密であればあるほど、それらに伴って予期しないアクシデントが発生することもあるということです。

さらには車両によって、窓が固定化されて開かないものもあります。

一歩間違えば閉じ込められた乗客が逃げ場を失い、数十名の乗客が焼死したかもしれません。 もしくは首尾よく車外へ避難しても、動きだした電車の車輪に巻き込まれる人がいたかもしれません。 

そんなことを服部容疑者は考えたでしょうか? 

死刑になりたいと思った。

ひとりでも多くの人を道連れにしたいと思った。

だから周到に計画を立てた。

でも、そのようには見えません。

もし周到に考えていたら、あの場面でタバコに火をつけるようなことはしなかったはずです。 

なぜなら、タバコの火がライターオイルに引火して、彼自身が火ダルマになっていたのかもしれません。

そうなったら、逮捕されることも、死刑になることもなくなってしまうのですから・・・・・。

そしてもう一つ言いたい事があります。

 「おい服部、電車の中は禁煙だぞ!」

2021年 (令和3年) 11月9日  九州新幹線放火未遂事件

JR新幹線新八代駅/熊本駅間を走行中の下りさくら401号の車内で、69歳の三宅潔容疑者による放火未遂事件が発生しました。 三宅容疑者は列車内に何らかの液体を撒き、火をつけようとしたがつかず、新八代駅で駆けつけた警察官に現住建造物等放火未遂容疑で逮捕されました。

この事件によるけが人等の被害者はいませんでした。

犯行の動機は、以前から死にたいと思っていたが、京王線の放火事件に触発され犯行に及んだとのことです。

それにしても、69歳の 「三宅老人」 が28歳の服部容疑者の真似をした、なんとも情けない話だと思います。 お爺ちゃんと孫ほどの年の差があるのですから。 孫がお爺ちゃんの真似をするならわかりますが、お爺ちゃんが孫の真似をするものでしょうか・・・・・?

3つの事件でわかった最も恐ろしいこと

車両の防火技術の向上や避難誘導体制等鉄道事故に対する取り組みは、行政や各鉄道会社、車両メーカーのたゆまない努力によって数々の教訓を残しながらも日進月歩の改善が進められていることと思われます。 

しかしその反面、もっと恐ろしいこととしてこれら3つの事件はどうにも防げなかったのかということです。 

1995年(平成7年)に発生した地下鉄サリン事件が記憶に残る最も忌まわしい事件として挙げられますが、新幹線の他にJRや私鉄の中長距離列車、朝夕の通勤通学電車で、乗客一人ひとりに所持品検査を実施することができるでしょうか?

またオウム事件の後に、公安調査庁の捜査員が不審人物を特定して毒物の散布を未然に防いだなどという嘘か本当かわからないようなことも報じられましたが、あまねく存在する犯罪者もしくはその予備軍に対して捜査・追跡の目を貼り付けることは可能なのでしょうか?

平和ボケした日本人が同じ被害に遭わないために何をすべきか、答えは冒頭にも書きましたが、電車に乗らないこと、それ以外に何かあるでしょうか?

作成:2022年4月18日

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です