#008 大規模工事と近鉄電車の事故-2 

大和西大寺の変?

こんにちは、杉さんです。

今回のテーマも前の章に続き近鉄です。

場所は奈良市の中心部から西に5kmほど西にある大和西大寺駅です。

この駅の付近で何があったのかは多くの方がご存知だと思いますが、さる7月8日に元内閣総理大臣、安倍晋三氏が折からの参議院議員選挙の応援演説中に、山上徹也容疑者の凶弾によって暗殺された舞台となったところでもあります。 

実はこの駅は構造の上でも、過去に同じ近鉄で発生した事故の状況から見ても、見逃すことのできない、非常に危険な場所であることを以前から考え、その事をお伝えしようとしている矢先のことでした。

それが図らずも乗客の安全ではなく、 「時の人」 の暗殺という事態にすり替わったことに底知れない驚きを感じました。


ただし、その話題についてはいったん棚の上に挙げさせていただき、話題は電車の方に戻したいと思います。

大和西大寺駅とはどのような駅なのか?

では、この大和西大寺駅がどのような駅なのかを見てみましょう。

この駅で
近鉄の主要路線である奈良線と京都線・橿原線が交差しています。

場所は奈良市の中心から西へ5㎞の場所に位置しています。

1日当たりの平均利用者数は47,000人、列車本数は上下合わせて816本ですが、二つの数値を見る限りでは意外にも大規模とは言えず全国レベルでは中規模クラスの駅のようです。

その他に277両の車両を収容する私鉄最大規模の車両基地が隣接しています。

ではここで何が凄いのかと言えば、中規模とは言えこれだけの規模の路線が交差する場合、普通は立体交差となっていますが、この駅の場合は平面交差となっていているところが他とは大きく異なっています。

そこで他の路線と比較してみました。


主要駅からの時間・距離や列車の密度から三つの駅を候補に挙げデータを収集して下表にまとめてみました。 

いずれの駅も立体交差になっており、平面交差の駅はどこにもありません。

では、この駅を通る二つの路線が平面交差であることのメリットとデメリットは何なのかを考えてみたいと思います。

メリット

  • 列車によっては階段の上り下りがなく乗り換えが容易である。 
  • 見ていて楽しい。 全国の鉄道マニアの注目を集めています。 テレビではタモリさんがご自身の番組で採用したこともあり、Youtubeでは人気Youtuberのスーツ交通さんをはじめとする数多くの方々が題材として取り上げてきました。 但し、それらが鉄道マニアではない普通の人たちの共感をどれだけ得られるかは別問題ですが・・・・・。

デメリット

  • 危険であり、いつ大事故が起きても不思議ではありません。立体交差と平面交差、どちらが安全なのかは火を見るよりも明らかです。 その他、運行プログラムがどのように組まれているのか、不測の事態にはどう対処しているのか、テロ対策は万全なのか、心配事を考えたらキリがありません。
  • 周辺道路の慢性的な渋滞の原因になっています。 電車同士はおろか、電車と自動車が平面で交差する以上、抜本的な渋滞解決策はありません。
  • 古都平城京跡の景観上相応しいものとは言えません

どうやら判定は1対10のコールドゲームでデメリットチームの勝ちのようです。 どうも社会的な説得力という観点から平面交差のメリットは今二歩今三歩といった感じがします。

なぜ平面交差なの?

では、この駅の立体化が進まない理由は何なのでしょうか。 

じつは近鉄側が一方的に強硬な態度を取っているわけではありません。

立体化を議論する以前に、そもそも大和西大寺駅と近鉄奈良駅の間に鉄道を敷設してよかったのか、ということに話を戻さなくてはなりません。


下の地図をご覧になっていただければお分かりいただけますが、この区間は世界遺産の一つである平城宮跡(緑色の部分)があり、その中を近鉄奈良線が東西に横切っています。 ただし、そのことは近鉄側に否があるわけではなく、近鉄の前身である大阪電気軌道が 1914年(大正3年)に路線を開業した当時は考古学が進んでおらず、この地に奈良の平城京があったことはほとんど誰にも知られていませんでした。 奈良から京都へ平安遷都がなされてから1000年から1100年後のことですから無理もないわけで、用地が買収されて線路が敷設された当時はただの農地に過ぎませんでした。

しかし発掘調査が進み、平城京の歴史的遺産としての実態が明らかになるにつれ、国や奈良県は近鉄に対して線路の移転や地下化の打診を始めるようになりましたが近鉄側は難色を示し、両者の態度は平行線をたどり続けました。 

しかし近鉄としても行政や地元住民の声を無視できない深刻な事態に追い込まれることになりました。 周辺道路の大渋滞です。

記録によれば一部の踏切では、1時間あたり44~52分開かずの状態が繰り返され、それが現在も解消されていません。

そのような中で2017年、国の踏切道改良促進法の制定により、大和西大寺駅の高架化と同駅から近鉄奈良駅までの地下化が、国・奈良県及び周辺自治体と近鉄・JR西日本との間で2060年度までの完成に向けて合意されました。

この駅のどこが危険なのか

  • 平面交差であること

小生の苦心作であるアニメーションを使ってご説明するとこのようなになります。 秒刻みの過密ダイヤであることがおわかりいただけると思います。

  • 過去に多くの重大事故が発生している

前の章で述べた通り、この鉄道会社では過去に8件の重大事故が発生し、106名の方が犠牲になっています。 これら一つひとつの事故には合理的な因果関係はありませんが、迷信だけでは片づけられない何らかの繋がりがあるように思えてなりません。 何よりも、4件の事故が発生している生駒トンネルからわずか8㎞の距離しか離れていないということと、上ノ太子駅・河内国分駅からも20㎞、総谷トンネルからも45㎞の距離でしかないということです。

  • 過去にあった大規模な工事と前後して大事故が発生している

また8カ所のうち6カ所の事故現場付近で会社の歴史に残るような大規模な工事が行われていました。 それらの工事は事故の発生時期と近接しているように思えます(下表黄色の部分)。 

この大和西大寺駅でもそれらに匹敵する、もしくはそれ以上の大規模工事が2040年から2060年にかけて予定されています。

表の読み方の一例:④の事故が発生した34年前の1914年に旧生駒トンネルが開通し、事故16年後の1964年に新生駒①トンネルが開通しています。 また、新生駒トンネル①は奈良線用、新生駒トンネル②は旧生駒トンネルを一部流して、現京阪奈線用として作られたものです。

実はそのことが、小生の最も懸念するところなのです。

  • 安倍元首相暗殺の舞台となった駅である

冒頭にも申し上げましたが、実はこの事件はこのレポートの進め方を考えていた矢先のことでした。

私見を言わせていただければ、悪事を重ね、国民を騙し続けたこの人物を、本来なら日本の司法に公正な裁きを下してほしかったと思っていたところですが、とりあえずのところは天罰が下った、そう考えて諦めることにしています。

数年後、もしくは数十年後の日本史の教科書に 「桜田門外の変」 ならぬ 「大和西大寺の変」 という文言が登場しているかもしれません。 先生は生徒たちにどのような説明をするのでしょうか?

そんなことよりも、この駅がこれから先もずっと無事故であり、世界樹の観光客や多くの鉄道マニアを温かく迎い入れ続けてくれることを切に願うものです。

作成:2022年8月28日

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です