#011 北陸本線のトンネルにも魔物が棲んでいる
それにしても許せない鉄道省、国鉄の態度
目次
こんにちは、杉さんです。
今回は北陸本線のトンネルで発生した4つの事故についてご紹介します。
そのうちの一つである柳ケ瀬トンネルでの乗務員窒息事故は開業当初からの狭小トンネルと大型機関車とのミスマッチによる 「不可抗力」 ということで片づけられても仕方がないかと思いますが、残りの3つについてはどうしても釈然としないものが残りました。
今回の鉄道省、国鉄の事故後の対応を見る限り、事故の当事者としての誠意の無さ、責任を回避するためのあまりにも幼稚な論理の組み立てというものがとても目立ちました。
どうも組織が肥大化すればするほど、古今東西を問わず、その頂点に立つ人たちは人間社会のあるべき姿というものを見失ってしまうのでしょうか?
1922年 (大正11年) 2月3日 北陸線列車雪崩直撃事故
北陸線親不知駅/青海駅間にある勝山トンネル西側出口付近で大規模な雪崩が発生、通りかかった糸魚川行き下り65列車を直撃しました。 列車には200名の乗員乗客が乗車しており、そのうち90名が死亡、40名が重軽傷を負いました。 事故の原因は折からの豪雪と季節外れの大雨による全層雪崩の影響とみられています。
この事故で犠牲となった人は、近在の10~30歳代の働き盛りの青年が過半を占め、地域によっては働き手を失い壊滅的なダメージを受けたところもありました。
遺族への補償金として、当初鉄道省から一人当たり200円の打診がありました。
因みに当時の弔慰金の相場は、常勤の作業員は200日分相当の200円、臨時作業員の場合は100日分相当の100円といわれていました。
さらに鉄道省は、そもそも犠牲となった彼らは、地元の土建会社の臨時工の立場として除雪作業にあたったため、雇用契約はなく、本来は補償の義務などない上での破格の対応である旨の主張をしてきました。
糸魚川市長である中村又七郎は鉄道省のその誠意の無さに激高し、改めて2,500円を要求しました。 中村は、彼らは臨時雇いの一作業員ではなく、鉄道省や軍部からの強い要請を受けて除雪作業に就いたのだから、「勤労奉仕者」であると強硬に主張しました。
鉄道省と中村市長はしばらくの間は平行線を辿りましたが、新潟県知事である太田政弘の仲介もあり2,200円で決着しました。
さらには大正天皇からの下賜金やその他一般からの見舞金・弔慰金を含め、最終的に一人当たり4,400円の金額となりました。
1928年 (昭和3年) 12月6日 北陸線柳瀬トンネル窒息事故
北陸本線刀根崎駅/柳ケ瀬駅間にある柳ケ瀬トンネル内を走行中の上り貨物列車が、上り急勾配を走り切ることができず立ち往生しました。 そのため狭いトンネル内に煤煙が充満し同列車の乗務員10名全員が窒息し、2名が昏倒しました。 トンネル直前の雁ヶ谷信号所で待機していた下り貨物列車の機関車が、立ち往生した上り列車をトンネルの外へ押し出したが、救助に当たった下り列車の乗務員2名も二次災害に遭い窒息・昏倒してしまい、 その結果として上り列車10名、下り列車2名、合わせて12名の乗務員全員が窒息し、5名が死亡しました。
事故の原因として次のことが考えられました。
- 前々日の事故により貨物量が大量に停滞し、当該列車の負荷も通常よりも超過していた。
- 線路上に積雪があり車輪が空転した。
- 列車に追い風が吹き、煤煙が拡散されず機関車にまとわりついた。
- 同トンネルが明治17年の開業当時に作られものであり、昭和時代に投入された大型の蒸気機関車には狭すぎた。
事故後、長大トンネルや蒸気機関車に対する様々な防煙対策が実施されました。
1969年 (昭和44年) 12月6日 北陸トンネル寝台特急 「日本海」 火災事故
敦賀駅/今庄駅間の北陸トンネル内を走行中の青森発大阪行きの急行寝台列車 「日本海」 の先頭車両である電源車から失火、火災が発生しました。 当時の国鉄の規則によれば、 「火災が発生した場合は速やかに列車を停止させなければならない」 と定められていましたが、機関士は乗客の安全を最優先に考え、火災を起こした列車をその場で止めることはなく、待ち構えていた消防隊によって鎮火しましたが、 被害は火元となった電源車の損傷のみで、死者・けが人を出すことはありませんでした。
ところが事故後、機関士に対する評価が明暗を分けることになりました。
あえて規則を破り、乗客の安全を最優先に考え、被害を最小限に抑えた 「大英断」 、 「勇気ある決断」 とするものと、失火を認識しながら列車を停止させなかったことは 「重大な運転規則に違反する行為」 として更迭処分を図った国鉄側のものとで評価が二分しました。
しかしわずか3年後の1972年11月、思わぬ形で 『天の裁き』 が下されることになりました。
1972年 (昭和47年) 11月6日 北陸トンネル寝台特急 「きたぐに」 火災事故
今庄駅/敦賀駅間の北陸トンネル内を走行中の大阪発青森行きの急行寝台列車 「きたぐに」 の食堂車から失火、火災が発生しました。 機関士は運転規則に則りトンネル内で列車を緊急停止させました。 今庄側入り口から5.3km、敦賀側出口まで8.6kmの場所でした。
列車の乗務員は対向する上り線を閉塞するなどの措置を取 り、手元の消火器で懸命の消火作業を行いましたが、その甲斐もむなしく火勢は衰えることがありませんでした。 やむなく、乗務員らは火災車両の切り離しを試みることにしましたが徒労に終わりました。
その間、乗客らは必死の思いで逃げ惑い、煤煙が漂い、視界もままならないトンネル内を歩き続けるしかありませんでした。 事故現場から2㎞今庄側に移動したところに、上りの急行列車 「立山」 が停車していました。 避難した乗客らのうち225名が急行「立山」に救助され、一命をとりとめたものの、その場に居合わせた人たちと敦賀側に避難した人たちの計500数十名が取り残された。
この事故の影響で、30名が死亡、714名が一酸化炭素中毒等の重軽傷を負いました。
事故の直接の原因は、食堂車内の暖房装置のショートと見られています。
また、多くの被害を出した要因として次のことが考えられました。
- 寝台列車のため乗客の多くが就寝中であった
- 火災現場がトンネルのほぼ中央部であり、歩いて非難するにはどちらの出口も遠すぎた
- トンネル内には消火器以外の排煙設備、消火設備がなかった
- 地元の消防には排煙車はなく、ポンプ車からホースを延伸することもできなかった
- トンネル内の照明が点灯されていなかった
これらのことは以前より地元の消防から再三にわたり指摘を受けていたものの、国鉄側としては 「近代的で電化されたトンネルでは火災事故などありえない」 との態度を頑ななまでに変えませんでした。
さらに、3年前に発生した同一現場の火災事故の際も、被害を最小限にとどめた機関士の功績を評価することもなく、 「規律違反」 だけを盾に、一方的な処分を下し、運行マニュアルの見直しもしなかった当局側の態度に非難が集中しました。
その後の国鉄の対応として、三度の実車による実験を繰り返し、トンネル内で火災が発生した場合は停止せず、そのまま脱出する旨の内容で運行規程が改められました。
言うまでもなく 「規律違反」 の汚名を着せられた機関士の処分は撤回されました。
国鉄幹部職員の発言に一考察: 『認知不協和の理論』
これらのことは以前より地元の消防から再三にわたり指摘を受けていたものの、国鉄側としては 「近代的で電化されたトンネルでは火災事故はありえない」 との態度を頑ななまでに変えませんでした。 また、3年前に発生した同一現場の火災事故の際も、被害を最小限にとどめた機関士の功績を評価することもなく、 「規律違反」 だけを理由に一方的な処分を下し、運行マニュアルの見直しもしなかった・・・・・・・。
組織の中ではよくある話です。 テレビドラマなどでも再三にわたって見られるシーンです。
よく 『君にできない理由を言わせたら天下一品だね!』 などとよく聞きます。
小生のサラリーマン時代にもこういう人は何人もいました。
AさんからZさんにいたるまで、数え上げたら枚挙に暇がありません。
このような行為は心理学の用語で 「認知不協和の理論」 というそうです。
分かりやすい例をあげると、 「タバコは肺がんになりやすいからやめなさい。」 といわれても、 「肺がんになる前に交通事故で死ぬかもしれません、だからタバコは止めません。」 そのように自分の都合のいいように論理をすり替えてしまうようなことの例えです。
今回の事故の場合、 「トンネルの中で火災が発生するかもしれない、その対策を立てなければならない」 そのような大命題があるわけですが、 「電化もされて近代的なトンネルの中で火災など発生するわけがない」 という国鉄固有の原理原則があるそうなのですが、そちらの論理にすり替えられてしまったようです。
従って防火対策は何も行われなかったのです。
電化を実施するにあたり排煙装置を設けた、スプリンクラーを新設した、 すべての避難路に照明塔を設置した、その他もろもろ万全の対策を実施した上での釈明であるならばわかりますが、列車を走らせるためだけの送電線を敷設したことが火災の予防になったのでしょうか?
肺がんにかかる前に交通事故に遭うことはあるでしょうが、トンネルの中で電車が火災を起こさないという保証は誰が考えたのでしょうか?
21年前に起きた桜木町駅前の電車火災事故について、 「あれは誰が見たってトンネルの中じゃないよ、高架線の上のことじゃないか!」 国鉄さんはそうとでもおっしゃるのでしょうか?
作成:2022年4月1日
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